あたしの王子さま
うっとりしながら、あたしはその立体ホログラムを見つめる。
「なに、アメル。またここに来てたの?」
声に視線をめぐらせると、あたしのとなりに呆れた顔をしたエミリーが立っていた。
あたしの一番の親友だ。
あたしは興奮したまま、絵画に視線を戻す。
「だって素敵じゃない?風に流れる白銀の髪。きれいな白い肌。形のいいうすいくちびる。憂いを帯びた蒼い瞳」
「まぁた始まったか、アメルの病気が」
あたしのこの話を耳にタコができるくらいに聞かせられているエミリーはため息混じりにつぶやいた。
いいじゃない。好きなのよ。
背景に描かれた崩れかけた神殿は今も世界遺産として残されていて、あたしも実際に見に行ったわ。自腹を切ってと、高校の修学旅行で。
時代的には、エリオットが生きていた時代、神殿はきれいな形のまま壊れることなくあったはずだけど、まあそれはご愛嬌。絵画としてはすばらしいのよ。
「あ〜素敵〜!あたし、この絵だったら何時間でも飽きずに見ていられる自信があるわ」
「実際そうじゃない。あんた、ひまさえあれば必ずこの絵があるところにいるもの。小学校のときは職員室前に飾られてたからそこ、中学のときは美術室にあったからそこ、高校のときは来客用玄関口にあったからそこ。で、大学では芸術学部の玄関。あんたってほんっと飽きないわよね」
「だってほんとに素敵なんだもん。これ好きさにこの画家の画集まで買っちゃうくらいに」
「あんたそれだけじゃないじゃない。その画集より大きな絵が載ってたのなんのって言ってその後で別の画集も買ってたでしょ?」
「そうよ?だって、エリオットさまはあたしの王子さまなんだもん」
両手を祈るようにあわせてぽや〜んとしているあたしをエミリーがはたいた。
「なに言ってんの、あんたの王子さまはコールでしょう?」
「ななな、なに言ってんのよ!」
あたしはかあっと顔を赤らめて、思わず否定する。
だって、恥ずかしいじゃない。ここ、大学内なのよ。だれが聞いてるかわかんないんだもん。しかも、コールは大学一の人気者。他大学や高校生にも人気なんだから。
「そういうこと言わないでよ」
「大昔に死んじゃった人より、現実をみなよ、現実を」
「見てるっての」
エミリーに言い返して、あたしは絵に視線を戻す。
それでも、やっぱりあたしの初恋の人であたしの一番最初の王子さまなの。
できれば、あたしも古代に生まれたかったな。そうしたら、一目くらいは見られたかもしれないのに。
時計を見たエミリーがあわてた声で告げる。
「アメル、次の授業始まるよ」
「ほんと?!急がなきゃ!」
走って講義室へ戻りかけて、あたしは立ち止まって振り返る。
彼が見ているのは、ななめ上。
あたしと視線が合うことは、永遠にない。
「アメル!早く!」
「うん!」
あたしは怒ると怖い教授に怒られないよう、あわてて廊下を走り出した。
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