先は長くて
ニースは白いハンカチを手に、にこりと笑う。 レナはごくりとのどをならした。 「で、ではお願いします」 レナが頭を下げると、ニースがこくりとうなずいた。 「ええ。がんばりましょう。ではまず、簡単なししゅうから入りましょう。まず、針に糸を通します」 「は、はい!」 レナが糸の先をぺろりとなめて、小さな小さな穴を目を細めてにらみつけながら真剣な顔で細かな作業を行っている。 ニースはそれを笑顔で見守りながら、自身も糸を通し始める。 (ハンカチはわたくし、たくさん持っていますから、これはジャックさんにさしあげようかしら) そこまで思ってはたと気づく。 (この場合、わたくしはなんてししゅうすればいいのかしら) レナに教えるのはまだ絵のような高度なししゅうは教えられない。まだレナはぬいものの初心者だ。 イニシャルをぬいつけることをとりあえず練習しようと思っている。 とすると、ジャックは? (ジャックさんは、J?さすがにJ.Oはまずいかしら) 知らないと思っているかもしれない。 でも、父に名乗っていたのだから、いいのかしら。 ニースが悩んでいると、「きゃっ」悲鳴があがる。 「どうしたの?」 「す、すみません、指を……」 レナが眉を寄せて、指をくわえている。 指をさしてしまったらしい。 「最初はありますわ。だいじょうぶ、わたくしもありましたもの」 「はい」 レナはそのあとも糸を通そうとするが「きゃっ」「うっ」「いたっ」何度も指をさしてしまう。 (前途多難ですわね……) ニースは長い道のりを思い、気づかれないように小さく息をついた。
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